紙を切ったり、工作をしたり。私たちの身近にあるはさみは、さまざまな仕事で、ものづくりを支える大切な道具として使われています。
今回お話を伺ったのは、音楽や舞台を中心に衣装を手がけるASUKAさん。照明を浴び、歌い、踊る人のための衣装は、立っているときだけでなく、動いた瞬間にも美しく見えることが求められます。
ステージ上の見え方を想像しながら形をつくる仕事と、その始まりを担うはさみについて伺いました。
ASUKAさんが手がけるのは、コンサートや舞台などで着用される衣装が中心です。
広告撮影の衣装であれば、カメラから見える一方向を美しく整えることもできます。
しかし、ステージでは演者が動き、客席からさまざまな角度で見られます。
そのため、ASUKAさんは「360度どこから見ても成り立つこと」を意識しているそうです。
腕を大きく上げても動きを妨げないか。踊ったときにシルエットが崩れないか。
着る人が求めるゆとりと、衣装としての美しさをどう両立させるか。
「立っているだけでスタイルよく見えるのはもちろんですが、 動いたときのことを全身で考えます」
色を選ぶときも、パーソナルカラーだけにとらわれず、役柄や背景、照明を含めた全体のバランスを見て決めていきます。
衣装単体ではなく、ステージに立った瞬間を思い描くこと。
それがASUKAさんのものづくりの出発点です。
衣装づくりへの興味は、幼い頃の体験から育っていきました。
バレエやダンスを習い、地元・高知ではよさこいにも親しんでいたASUKAさん。
毎年違う衣装を着て、ヘアメイクまで含めたコーディネートを考える中で、踊ることだけでなく「つくること」にも心を動かされるようになったといいます。
当時は欲しい服が身近で見つからず、普段着を自分でリメイクすることもありました。
高校では被服部に入り、お店で服を見るたびに、頭の中で形を分解します。
「これは、どうやってできているんだろう」
授業中に構造を考え、放課後に実際につくってみる。
平面的なTシャツよりも、布が立体的に流れるドレープに面白さを感じ、限られた素材を重ねながら、動きや表情を生み出していきました。
その後、東京で映画や舞台の衣装を学べるコースが新設されたことを知り、進学を決意。
幼い頃から身近にあった踊りと服が、衣装作家という仕事へつながっていきました。
衣装制作では、まず生地の織り目を整え、型紙に合わせて裁断します。
布の端をまっすぐに整えるため、最初に横向きにはさみを入れることも大切な工程です。
裁断には裁ちばさみ、縫製の途中では糸切りばさみ。
ASUKAさんは用途に応じて、道具を使い分けています。
厚い生地を切ることよりも、実は薄く繊細な生地をきれいに切る方が難しいのだそうです。
引っかかることなく、狙ったラインに沿って刃がすっと入ったとき、ASUKAさんはこう感じるといいます。
「今日も切れた。今日も元気だな、という感じです」
生地の上を滑るように進む刃。その小さな手応えが、これから始まる衣装づくりの調子を教えてくれます。
はさみを用途別に使い分けるようになったのは、衣装を学び始めた頃の出来事がきっかけでした。
授業中、友人が布用の裁ちばさみで型紙を切ろうとしたところ、先生から「それは布切り用だから、紙を切ったらだめ」と教えられたのです。
それまで、はさみの違いを深く意識していなかったASUKAさんは、そこで初めて、切るものによって道具を分ける意味を知りました。
それ以来、布、紙、糸と、用途ごとにはさみを用意しています。
現場へ持っていくはさみには、コンパクトで軽く、閉じたときに刃が開かないことを求めます。
一方、作業場で使うものは重さがあっても、開閉したときの「カチッ」という音や、途中で引っかからずに切り進められる感触を大切にしています。
切れ味だけでなく、音やリズム、手に伝わる感覚まで。はさみは、つくり手の気持ちを作業へ向かわせる道具でもあるのです。
ASUKAさんは子どもの頃から、絵を描いたり、紙を切って貼ったりすることが好きでした。
小さなはさみを使って、少しずつ曲線を切り抜いていく。
カッターでは表現しにくいカーブをつくることが、今でも得意だといいます。
「道具を使う経験は、子どもの頃に使い込んだ感覚がずっと残っていくものだと思います。
いろいろなものを切って、使ってみてほしいですね」
一枚の紙を思いどおりの形に切る楽しさも、一枚の布から人の動きを美しく見せる衣装をつくる仕事も、始まりは、はさみを手にして自分で試してみることなのかもしれません。
身近なはさみで、紙の形を変えてみる。素材の感触や、刃が進む音を楽しんでみる。
そんな小さな体験が、いつか自分だけの「つくる力」につながっていくはずです。
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